Tuesday, March 30, 2010

〔トラフィック・モメント第二幕〕記述と構え 第二十二章 言語行為のプロセス

 前章では相手を殲滅や壊滅を目的として言語行為が文明を構築進化させていく上で成立し得るのかということを最後に考えた。それはチンパンジーにおいてもミラーニューロンが働き、ある個体が同一種の個体に対する関心の方が他の、例えば人間に対する関心より強いということが証明されたばかりであるが、要するに同一種に対する関心とはどのような種においても成立し得るのではないかという可能性への示唆になっていた実験結果であるが、それが正しいとすれば、他種に対してなら他種を欺く擬態といった進化が必然化されても、同一種内で他個体を殲滅する為にある他者壊滅目的の言語行為が進化していくということはほぼ確定的に進化論的に、自然選択的に誤りであるとは言ってよいであろう。
 多大なストレスを同一種に与えるようなタイプの言語行為が高度な文明を構築していくために障害となって作用するという可能性の方が大きいと容易に想像されるからだ。
 さて本章ではではそれを前提として、同一種内で我々人間が言語行為をするに当たって、どのような心的なプロセスが顕現されているのかということについて考えよう。
 情報の格差認識と共有意志、或いはその都度の意志表示能力と欲求とそれら三つに対する認知、それを踏まえた意志伝達が他者との間で利益となる事自体への認知は、即ち他者も又自己と同一の利益を得ることを認知していて、こちらの意志と相手への要請を理解出来るであろうという目算が意思疎通の基礎としてある、ということは意思疎通を成立させる条件であったが、今度はそれを自己において行為へと変換させていく際の心的プロセスについて考えてみよう。
 それを私は次のように考えてみた。

① 言語使用者である他者の認識
② 言語行為実践の意志発動(自己と同一言語使用者であることの認知を得た後の意志発動)
③ 言語行為における発語、つまり情報格差の説明(何かを聞き教えて貰いたい時は、こちらが相手は知っているだろうが、自分は知らないことを伝える)
④ 他者(発語相手)からの応答の授受の開始・相手の応答に対する認知と情動(情動とは、相手の応答の仕方、親切度を推し量って相手とそれ以降も意思疎通を続行していくべきか否かを決定する)

 この四つのプロセスは必須であると思われる。
 言語使用者である他者の認識とは奇異に思われるかも知れないが、あるいは精神的に安定を欠き、精神疾患であるかも知れないという可能性を認知し得る時、我々は相手から何か危害を加えられるかも知れないという畏怖の感情から相手から距離を置こうと画策するであろうし、相手が何かテロリストであるかどうかということも同じように警戒心を発動させる十分条件だ。だが勿論それは相手が言語使用者であることは間違いないが、この場合自分にとって意思疎通するのに適切であるかという意思疎通相手選択の条件としては、自己の安全か確保出来て、しかも一定時間内に相手と意思疎通する事自体が成立し得るか否かの判定における言語使用者という適切性に関する心的プロセスであるとご承知頂きたい。①
 それがクリアされた段階において我々は次に初めて相手に対して何らかの意思疎通の意志表示をする為のアプローチの手段を講じる。その為に観光地で道に迷った時などは、地元で生活している人であると思われる人に目星をつけて我々はそういった当の人に対して会釈したり、頭を少し下げたりして質問をしたいという態度を示すように身体を構えていくわけだ。②
 そして十分そういった意思表示を状況説明的に相手に納得させて然る後、仮に京都で観光旅行しているという事が自分の立場ならそれを簡単に説明して、尤も金閣寺に行くにはどのバスに乗ればいいのですかとか、ここから歩いて行くにはどういう風に行けばいいのですかというような質問をいきなりするだけで、京都とはそもそも観光地であるということは地元の人たちも知っているので、一々説明をする必要はない場合も多いであろう。
 要するに「金閣寺に行きたいのですが」ということを相手に言述する③ことによって、金閣寺へのルートという情報を欠如している自己をアピールする。ここで情報格差に対する相手への説明が終了して、相手がもしその情報欠如を穴埋めしてくれる事が出来る、つまりその地理的情報を知っている者であるなら、教えてくれる筈だ。そして③の後にその教えてくれ方、応答の仕方で、いい印象を持った場合、つまりこちらの情報格差の説明と窮状の説明に対する応答の誠実さを判定する事を通して、我々は更に金閣寺の次にはどこそこに行きたいとか、近くで食事をしたいという意志を示すことによって、更に適切なアドヴァイスを得るという事が可能か否かをその段で判定することとなるのだ。④
 これが極基本的な日常的な「何かを他人に聞く」ということを通した意思疎通の言語行為プロセスにおける心的順序であると言ってよい。
 実は我々はこの心的プロセスを日常的に何の気なしに反復する事を通して、それが可能である他者を無意識の内にリストアップしていき、円滑に情報を交換し得る者をその情報交換の情報内容に応じて優先順位をつけ、親友とか最良の同僚であるとか、地元の顔見知りとか、同じマンション内の隣人とかの中で親しい人とそれほどではない人との間での格差を通した階層的な面識者のネットを形成しているのである。そして親しさを得ることの最大の誘引材料とは、上記の心的プロセスにおける④での相手に対する好感度と、そこで得た情報内容の適切さと密度といった獲得情報の重要性に対する判定に依存しているということは言うまでもないだろう。

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